こんにちは。
以前、カレッジフットボールで猛威を奮っているAir Raid Offense(エアレイドオフェンス)について記事を投稿しました。
Air Raid Offenseは、一口に言ってしまえばノーハドルで進めるパス偏重の戦術なわけです。その開祖とも言えるコーチがMike Leach(マイク・リーチ)です。そのリーチはミシシッピ州立大学のHCを務めていた2022年12月、急逝してしまいました。
ぼくが普段Twitterでアメフトのことを色々教わっているフットボールスナックのマスター(@masakinagk9)なる人物は、彼の死を悼むと同時に、彼が得意としていたAir Raidに興味を持ちました。そこから今回から続くプレイブックプロジェクトが始まりました。
そう、このブログで実際の試合で使えるプレイブックの形でパスコンセプトやランプレイ、パスプロテクションなどを紹介しようというものです。コーチ歴のある方や国内フットボール関係ではハイレベルな方々にご協力いただきましたので、実際の試合でも通用するであろうという自信はあります!興味のある方にご活用いただければ幸甚です。
※あまりにもスクロール量が多くなるため、複数に分けて投稿します。
Air Raidとは
これが今回のプレイブックの目指すところです。
そもそも、Air Raid Offenseはリーチの師匠であるHal Mumme(ハル・マミー)とリーチがつくりあげた戦術です。エピソードについては割愛しますが、身体能力に優れたタレントぞろいとは言えないチームを勝たせるために編み出されたのがAir Raid Offenseです。これを国内でも転用できないかというのが今回のプロジェクトの目的であります。
Mike Leachという人物について
リーチのエピソードについては、下記リンクのポッドキャストをぜひ聞いてみてください。Any Given Saturday (@ags_football1)さんとアメフト沼 (@football_swamp)さんは本場アメリカのフットボール事情に造詣が深く、それぞれの視点でリーチという人物を詳しく紹介してくださっています!ぼくが説明するよりずっと分かりよく、綺麗にまとめてくださっています。必聴です!
※お二人の許諾を得てリンクを埋め込んでいます。アメフト沼さん、AGSさん、ご協力いただき誠にありがとうございます!
どちらも高頻度で楽しいエピソードを配信してくださっています!ぼくより有名なお二人ですが、まだの方はぜひプレイリストに入れるなり、フォローするなりしてください!
Air Raidの概要
さて、いよいよ本題。元々Air Raidという戦術は特別な才能を持った選手がいないチームで勝つためにつくりあげられました。リーチは常に“Execution”という言葉を重視していました。少ないプレイを確実に遂行することが最も大事だということです。トリックプレイや複雑で膨大なプレイブックを用意するのではなく、用意された少ないプレイを徹底的に、確実に遂行することで、オフェンスはボールを進められると考えていました。リーチは新しいプレイを導入する際、別のプレイをプレイブックから除いていたそうです。その代わり、さまざまなフォーメーションやモーションを使うことで、プレイのバリエーションを増やしていました。
裏を返せばシンプルなプレイをみっちり練習する必要があります。その徹底ぶりはポジションを固定するところにも表れています。Air Raidのチームでは、左なら左、右なら右とポジションが固定されていることが多いです。なぜかというと、1人のレシーバーが右や左にセットすると、同じルートでも練習量が倍に増えるためです。例えば、Postのルートも左右それぞれ練習するくらいなら、片方を完璧に仕上げてしまう方が確実にオープンになれるということです。後で説明するフォーメーションでは左右に移動するポジションも一部ありますが、余裕のないチームはそのバリエーションは捨ててしまってもよいかもしれません。
Air Raidのもうひとつ重要な考え方は“Find the open grass”です。直訳すると「オープンな芝を見つけろ」となりますが、これはレシーバーが常にオープンになることを意識しています。具体的にどうすればよいかはパスコンセプトの回で説明します。とにかくAir Raidのパスコンセプトはどんなディフェンスが来ようとオープンなレシーバーをつくりだす工夫が随所に凝らされています。
そして、Air Raidのプレイブックは非常にページが少ないという特徴もあります。それはプレイの数が少ないということも影響していますが、「動画で見る方が分かりやすく、イメージも伝わりやすい」というリーチの考え方があります。彼らは紙でプレイを学ぶのではなく、映像でプレイを学びます。Air Raidの名手であるLincoln Riley (リンカーン・ライリー)のオクラホマ大学でのプレイブックは写真にルートの矢印を書いたりしています。そのくらい直感的に分かりやすいプレイのインストールを心がけています。このブログでもできるだけ重要なパスコンセプトについては動画を貼り付けます。動画で見て、パスコンセプトの働きを勉強していただければと思います。
Air Raidで目指す方向性
リーチがテキサス工科大学のHCを務めていた時代の資料では、各ポジションが1試合当たりボールにタッチする回数や獲得するヤード、シーズンのトータルTD数について目標を定めています。今回のプレイブックでもその目標値を流用しますが、あくまで目標です。アメリカ基準のヤード数となっているため、達成が難しいものもありますが、難しく考える必要はありません。Open Grassを見つけることが最優先です。
まずボールキャリアーとなるポジションは下記のとおり表記します。
続いて彼らが彼らが1試合当たりどのくらいボールにタッチするかの目標です。
全体のタッチ数は1試合当たり60-65回です。
パス偏重と言えど、ランも使います。つまりRBであり、最もQBに近い位置にいるFの選手が1番多くボールにタッチすることとなります。HはFの次にQBから近い位置にいる選手となるため、Fに次いで多くタッチします。XとY、Zは主にパスのターゲットとなり、FやHよりは少ないタッチ数を設定しています。QBのタッチ数はスクランブルやサックなどを想定しています。
次は1試合当たりに獲得するヤード数の目標です。
獲得ヤードもFが最も多く稼ぐ必要があります。XとZはInside Receiverと比べてDeep Threatとしての役割を求められるためヤード数は多めに設定されています。HとYはその代わり短いパスを多くキャッチしてください。QBは2%ほどのヤード数が与えられていますが、スクランブルやサックでの数字なので気にする必要はありません。
Play Call System
Air Raid Offenseの特徴は、ハイテンポなノーハドルオフェンスです。このため、プレイコールはできるだけ短くする必要があります。
細かい数字の意味やフォーメーションの名前は各項目で説明するとして、ダイアグラムとともに例示します。
「Ace Open 95」
プレイコールはたったこれだけです。それぞれの意味を説明します。
まず、フォーメーションについて。2 by 2のフォーメーションのひとつにAceというものがあります。このうち、YがRT (Right Tackle)から離れたものをAce Openと呼びます。
プロテクションは大きく60番と90番シリーズに分けられます。60番シリーズは3 Step (Shotgunからの1 Step Drop)のプロテクション、90番は5 Step (Gunからの3 Step Drop)プロテクションとなります。ここからプロテクションの人数やスライドなどを組み合わせたルールを選ぶことになります。プロテクションの回で別途説明しますが、最終的にはご自身のチームで考えた上で判断してください。
パスコンセプトは、90プロテクション (5歩パス)の5番目という具合に各コンセプトには番号が割り当てられています。例の場合はY-CrossというAir Raidを象徴するパスコンセプトです。
モーションやタグを使う場合は下記のようになります。
「Ace Open H-Move 92 Mesh Z Post」
タグとは、ほかのレシーバーには何の影響も与えず、1人だけルートを変更することです。上図の場合はZのみ通常とルートが違うことを表します。
Formation
さて、ではフォーメーションから進めていきます。
最初に説明しておくと、Air RaidオフェンスではOLのスプリットが広めです。それは広くセットすることにより、DLとQBの距離を遠ざけたり、Blitzに入ってきたりGapを埋めようとするディフェンダーを浮き彫りにしたりする意図があります。しかし、このためOLとDLは1 on 1の状況になりやすいです。具体的に確保するスプリットは、隣のOLから1.5 Yardくらいが目安です。
※どうしても1 on 1で負けるならスプリット狭めても可。
各フォーメーションごとにバリエーションがあります。このバリエーションの多さでプレイの少なさを補うことが肝要です。
Blue
20 Personelの2 by 1フォーメーションです。
Green
こちらも20 personnelの2 by1 ですが、Blueとの違いはFとHが逆にセットしていることです。
Ace
2 by 2のフォーメーションで、Air Raidでは多くのプレイをこの体型から展開します。
Dart
AceとはXとHの位置が違います。ただし、XはいつでもLOS (Line Of Scrimmage)に上がっています。
Early
3 by 1でメインとなる体型がEarlyです。Hが右サイドのNo. 2レシーバーにセットします。
Late
Yが左サイドに移動したものがLateです。しかし、Yが逆サイドに移動するということは、単純にパスコースの練習量が倍に増えてしまうということになります。人数が少ないチームにとっては練習時間も限られたものとなるため、使わずともいいかもしれません。使えるならバリエーションを増やすことができます。
各用語の説明
各フォーメーションで使われるバリエーションの説明です。
Motion
続いてはモーションです。
各用語の意味については
モーションの役割については以前投稿した下記の記事も参考にしてください。
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