フットボール教室 – ランプレイ

こんにちは。

オフェンスの基本については分かったけれども、ランとパスそれぞれにどんな役割、意味があるのでしょうか?

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最近のNFLはパス全盛の時代を迎えていると言っても過言ではありませんが、すべてのプレイをパスで構成するチームはありません。使用する割合はともかく、どのチームも必ずランプレイを使います。

今回はそんなランプレイについて学びましょう。ランプレイのメリット・デメリット、なぜランプレイを使うのか、そしてランプレイにはどんな種類があるのか。ランの基本をおさらいしましょう。

目次

Run Playとは

前回、オフェンスの基本的な話をした時のおさらいです。

ランプレイとは、Cがスナップ/エクスチェンジを受けた選手がRBやWRなどにボールを後ろに渡して走らせる、もしくはCからボールを受け取った選手がそのまま前に走るプレイのことです。ルールブック上ではなんと説明があるのか知りませんが、基本的にはQBがRBなどにハンドオフするプレイだと思ってもらって結構です。NFLでは少ないですが、カレッジではQBが走るプレイもしょっちゅうあります。またはQBの位置にRBがセットしてそのまま走るパターンもあります (Wildcat)

基本的にはOLやFB、TEのブロックの隙間を掻い潜ってゲインを目指します。LTからRTまでのボックスの中を走るものからボックスの外を目指すもの、左に行くふりをして右に行くもの、パスのふりをしたもの、複数の選手がボールを持つ可能性のあるものなどなど、そのバリエーションはさまざまで、ひとつのプレイをとってもチームやプレイによってさまざまブロッキングルール、モーションの組み合わせがあり、思っている以上に複雑なプレイです。

Matt BowenのTwitterより引用

Run Playのメリットとデメリット

ランがどんなものか分かったところで、ではランプレイのメリットとデメリットはなんでしょうか?

メリット

ターンオーバーのリスクが少ない

ボールを受け取ったRBは、脇にボールを抱えて走り出します。タックルを受けるときは両手でボールを抱え込むためポロっとボールをこぼすことはそこまで頻繁にはありません。このため、低リスクで確実にボールをゲインさせることができます。

ロスする可能性が低い

ノーゲインはよく見かけますが、ヤードをロスすることは少なめです。よっぽどOLとDLに力の差があれば話は別ですが、NFLなんかでもそこまでバンバンロスすることはありません。このため、低リスクで着実にゲインを狙うことができます。

デメリット

獲得できるヤードが少ない

そもそも人が混み合っている場所を走ることが多いのでパスほど獲得ヤードは大きくありません。NFLならドカンと10 Yds以上ゲインできる機会はかなり少なく、1回平均5 Yds獲得できればかなり良い。カレッジだとディフェンスが弱いチームがほとんどなのでもう少しランで獲得できる期待値は大きめです。

時間を使う

サイドラインに出なければ時計は進み続けるため、ランプレイはパスと比べて獲得ヤードの割に多くの時間を消費します。このため、ランが主軸のチームであっても2ミニッツなどのシチュエーションではランに頼ることができません。

Run Playの存在意義

さてメリットとデメリットが分かったところで、それでも最近のアナリティクスでは「どんどんパスを通して大量得点すべき」という結論が出ています。もちろんそれができれば万々歳なのですが、現実はそう簡単ではありません。ランをプレイする意味とはなんでしょうか?

ディフェンスに的を絞らせない

パスばっかりのオフェンスだと分かればディフェンスはパスに強いディフェンスにすれば良いのです。優秀なパスラッシャーを3, 4人配置してあとは全員DBにしてやればいい。ダウンフィールドに送り込めるレシーバーの数は最大5人です。対してパスカバーに割けるディフェンダーの数に制限はありません。8人のDBでカバーすればそう簡単にパスは通りません。LBなんかいりません。

ランがあるからこそLBも必要になるし、そのLBを虐めるパスコンセプトが有効になります。ディフェンスには常にランかパスどちらで来るか疑わせることが重要です。的を絞らせないからこそパスラッシュを弱められるし、ランもゲインを狙えます。ランとパス双方のために双方のプレイが必要なのです。パスのためのラン、ランのためのパスということです。

タイムマネージメント

デメリットでランは時間がかかると説明しましたが、これは状況によってはメリットにもなります。リードしている状況の試合終盤、相手にボールを渡したくありませんよね?できれば時間を目一杯使い切って安心して試合を終えたいところです。そんなとき、時間がかかるランを続けることでパスより多くの時間を使うことができます。当然、相手ディフェンスはランばっかりだと予想してくるので、そんな簡単にランは通りませんが、ここでランを通せれば勝利の確率は高まります。

また、相手オフェンスをフィールドに出したくない場合、例えばパスでバカスカ得点するような凶悪オフェンスのチームの場合、最大のディフェンスは相手オフェンスをフィールドから遠ざけることです。ラン中心に時間を使いながらドライブを継続できれば相手オフェンスを追い出すことができます。自チームのディフェンスも体力満タンにできます。

QBのパスに自信がないチーム

「得意なやつをQBにしろよ!」と言いたいところですが、現実には常にパスが上手い、要は相手ディフェンスを上回るQBがチームにいるわけではありません。そういうチームならQBもランに参加させてしまえばオプションなどでゲインしやすくなります。

悪天候に強い

ハイレベルなフットボールでも吹雪や大雨の中であればランが中心となりやすい。ボールがよく滑るようになるのは経験者ならご存知のとおり。ロクにパスを通せない天候となればランに頼るほかありません。NFLなら「悪天候だからパスが通りません」は通用しませんが、アマチュアの世界ではよくあることです。

Run Playの分類

ではランプレイにはどんな種類があるのでしょう?

個々のプレイや細かいブロッキングスキームはまた今度紹介するとして、大まかに分けるとランにはZone RunMan Run, Gap Runの3種類があります。というかぼくはそう理解しています。それぞれにどういう違いがあるのか見ていきましょう。

※人によって、Man RunはGap Runと同じ分類として扱う人もいます。

Zone Run

Zone RunZone Blockingをベースとしたランプレイのことです。Zone BlockingZone Schemeの考え方で行うブロッキングなわけですが、今回は細かいことについては割愛します。

要は特定の人ではなく、ゾーンがブロックする対象となっています。プレイサイドが左なら左、右なら右にブロッカー全体が流れます。ブロッカーたちはバックサイド側の肩からプレイサイドの隣にいるOLまでを自分のゾーンと扱い、自分のゾーンを潰しに来たディフェンダーをブロックします。

StuntsやBlitz、Slantが入ってもシンプルな考え方で対処できるため、近年のフットボールでは主力のランとしてNFLやカレッジを含めどのレベルでもよく使われています。考え方がシンプルだからといって簡単というわけではないので要注意。図面の上では対策しやすいというだけです。実際に動く選手たちは力量差もあったり細かなテクニックを使うため、簡単にはいきません。Zone Runを潰すStuntsなどもあります。

RBはあらかじめ決められたエイミングポイントに駆け出した後、決められた順番で走るホールを選択します。

Outside Zone

上の図はOle MissのHCLane Kiffin (レーン・キフィン) が得意とするOutside Zone (OZ) のひとつです。BOWがプレイ名で、7と6はプレイサイドを表します。7が左、6が右のプレイとなります。

OL全員が同じサイドへ流れてRBはその大外を狙うプレイです。ディフェンスを横に広げることがこのプレイの主な狙い。広げてしまえばRBが走りやすくなります。その代わりOLは早い段階から1 vs 1となるのでブロックは難しい。

ご覧のとおり、OLとHBは全員自分の左側をブロックしています。そしてRBはTEの外側のお尻、TEがいない場合はTEがいると想定した場合 (Ghost TE) の外側のお尻を目指します。その後は外から内へ (Outside-In) 順番にひとつずつ走るホールを選択します。

Pace N SpaceのTwitterより引用

Inside Zone

こちらは同じくOle MissInside Zone (IZ) というプレイです。3が左、2が右のプレイを表します。OZより内側を目指しているのが分かると思います。だからIZ。

一般的にはプレイサイドのB Gapを狙うプレイとなります。OZと比べると横ではなくダウンヒルに縦に走り抜けやすいプレイとなります。

Ole Missのこのプレイの場合、RBはCのど真ん中を目指してプレイサイドのAから順番にバックサイドへホールを選択します。プレイサイドのOLは外へ弾き出すように、バックサイドのOLは捲るようにブロックをします。両DTに対してはコンボブロックをしています。

https://twitter.com/PaceNSpace2/status/1639242995990921216?s=20
Pace N SpaceのTwitterより引用

Zone Scheme中心のチームはこのようにZone Blockingをベースとして先ほどのOZと組み合わせて横に広げたり縦に押し込んだりすることでディフェンスを揺さぶります。Zone Runにはほかにもさまざまなバリエーションがあり、それぞれ微妙にブロッキングルールが違っていたりします。細かくは別の機会に説明します。

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Man Run

Man Runは、Man Blockingルールで展開するランプレイです。

Zone Blockingとは違い、ブロックする対象は特定の人にアサインされます。基本的な前に当たるBase Blockや位置関係 (Leverage) を生かしたDown Blockなどをよく使います。ダウンヒルなランからボックス外のオープン (Perimeter) へ展開するプレイもあり、こちらも縦と横にディフェンスを揺さぶるプレイがあります。

ブロッキングの対象が決まっているため迷うことはありません。役割は非常にシンプル。ランの狙いも非常にシンプル。その代わりStuntsBlitzなどでGap Exchangeがあると混乱しやすいのがデメリットです。もちろん対応策は用意されているのですが、Zoneほど切り替えがすんなり行かないのが玉に瑕。

RBが目がけるエイミングポイントはそのままPOA (Point Of Attack) に直結しています。つまりZoneとは違ってどこを走るかはあらかじめ決まっています。

ISO

これはISOというプレイです。Jim Harbaugh (ジム・ハーボウ)49ersのHCだった時のプレイ。

ISOはB Gapを狙うプレイなわけですが、リードブロッカーのFBがWillをIsolateするからISOと呼ばれます。ディフェンスの土手っ腹をぶち抜いてやろうというランです。NFLだと昔からよく使われており、いまもオールドスクールなプロスタイルのチームは主力として使うランプレイです。

CとGがコンボでNoseをブロックした後、Mikeをブロックします。これはプレイサイドへ抜けられることを防ぐようにブロックします。対してFBはWillに内に入られないようブロックします。これでディフェンスを左右にIsolateするということになります。

HBはFBについて行きながらWillがどちらに顔を出すか見て最終的に走るコースを決めます。

Matt BowenのTwitterより引用

Crack Toss

これがCrack Tossです。Kyle Shanahan (カイル・シャナハン)49ersで使っているプレイです。

Crack Toss は、ご覧のとおり大外を捲ろうという狙いがあります。Leverageを生かしたプレイの典型です。2人のレシーバーが自分の一つ内側にいるディフェンダーを外から蓋をするようにブロックします。外側から外側を抑えるようにブロックするためディフェンダーは本来外へ追いかけないといけないのにそれができません。そして余ったPST (Play Side Tackle) がPullからCBをブロックします。CBが無理にでも外を守ろうとするなら外へ押し流し、内側に入ってくるならそのまま外側を抑えてしまいます。

RBはOZより外側、最初からオープンを目がけて駆け出し、リードブロッカーであるPSTのブロックについていきます。

Bobby PetersのTwitterより引用

Man Runについてはこちらで。

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Gap Run

Gap Runは、Gap Schemeと呼ばれます。Man Runと似ており、オフェンスは明確にブロックする対象が決められています。そしてDown BlockPullKick-Outをよく使います。

ではMan Runとの違いは何か?Twitterで詳しい人に教えてもらった事によると、GOD (Gap-On-Down) RuleでブロックするのがGap Schemeだということです。空けたいGap、OLにDLがOnしているか、Down Blockの順でブロック対象が変わります。Man Runほどガチガチにブロックする対象が決まっていません。しかし空けたいGapは決まっています。それに従ってある程度柔軟性があるのがGap Schemeとのこと。

また、Man Runはどちらかというとパワーを生かしたランが多いのに対し、Gap RunLeverageを生かしたランが多いです。Down Blockなどを活用し、位置関係で有利なブロックによってランを出します。

あとは実際のプレイを交えながら説明します。

Power

PowerGap Schemeを象徴するプレイです。これはSteve Ensminger (スティーブ・エンスミンガー) がOCだった時、どちらかというとJoe Burrow (ジョー・バロウ)Ja’Marr Chase (ジャマール・チェイス)Justin Jefferson (ジャスティン・ジェファーソン)Clyde Edwards-Helaire (クライド・エドワーズ・へレア) らがいたあの伝説のLSUと言った方が有名だと思います。その当時のLSUで使っていたプレイです。一般的には1 Back Powerと呼ばれます。

Pre-SnapPost-Snap RPOが組み込まれていますが、ここでは省略します。

図の場合、YとLTの間のC Gapを狙います。こういう外から一つ内のGapを狙うようなプレイをOff Tackleのプレイと呼びます。

このOff Tackleを空けるためYはDEをKick-Outという外へ弾き出すブロック、PSG (Play Side Guard) とPSTはDTを内側の奥に向かって押し込むコンボブロックをします。コンボは後からBSLB (Back Side Linebacker) のMikeをブロックします。これでDLは処理できましたが、このままではPSLB (Play Side Linebacker) であるSamが空いたC Gapに詰めてきます。このため、BSG (Back Side Guard) がPullからリードブロッカーとなってSamをブロックします。これが一般的なPowerのブロック。

Down Block (コンボやCのブロックのこと)とPullKick-Outで構成するのがPowerです。

RBはリードブロッカーのBSGについていきます。

Willie LutzのTwitterより引用

Counter

CounterGap Runを代表するランプレイです。これはシャナハンのCounterです。

一般的に狙うホールはPowerと同じOff Tackleです。そしてKick-Out、Pull、Down Blockで構成されています。Powerとの違いはCounterの名が示すとおり、最初の一歩とは逆方向に走り出すこと。BSGがPullからのKick-Out、FBが左に踏んでから右のOff Tackleを駆け上がりリードブロッカーとなります。

※49ersのGap Schemeは最初にA Gapを狙うので、普通のCounterとは少し違う。

RBは左に一度踏んでからFBについていきます。この一度逆方向へのプレイに見せかける行為からCounterとなります。

Coach Dan CaseyのTwitterより引用

最近は逆方向に踏まないCounterもあります。

では何がCounterなんだ?と言われると答えに困りますが、BSGともうひとりBSTやBSTEなどがPullするランプレイはGT CounterとかGH Counterとか呼ばれます。

Zach TibbsのTwitterより引用

Gap Runについてはこちらを。

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まとめ

ランプレイはフットボールにとってなくてはならないプレイです。そしてランが持つ意味はただ楽にゲインするためだけでなく、様々な役割があります。ディフェンスを縦横に伸び縮みさせたり、時計をコントロールしたり。ランがあるからパスが生きます。NFLではビッグゲインの期待値も低く、パスでガンガン進んだ方が良いのは分かります。そのパスを生かすためにもランは重要だということを忘れないでください。

そしてランプレイとひと口に言ってもさまざまなスキームがあります。コーチによってどれを主体的に使うかは分かれますが、いずれもランでゲインするためには欠かせないスキームです。

ほかにもOptionはありますが、それはまた別の機会にしたいと思います。

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