こんにちは。
前回はパスプロテクションについて学びました。
今回はその相手側となるパスラッシュについて。といってもパスラッシュのシステムは非常にさまざまな方法があります。DLのSlantだったりStunts, Twistだったり、LBとDBもBlitzという方法でラッシュを仕掛けてきます。さらにBlitzを入れる場合、ほとんどの場合DLはSlantなりStuntsをします。それとカバレッジもマンカバーにするのかゾーンカバーにするのか、ゾーンカバーならDeepとUnderneathの人数割りとポジション別の配置など、選択肢はほぼ無限です。その膨大な組み合わせの中からどれが最もバランスよくオフェンスにプレッシャーを与えることができるのかを考える必要があります。それにぼくが知る限りブリッツパッケージはコーチ独自の名前が多く、共通の名前というのはあまり見かけません。つまり見出しも付けにくい。
ということで今までこのテーマは避けて通ってきたわけですが、最近はぼくのブログを見てくれる人も多くなりました。ならば難しくてもやらねばなるまい、逆にぼくがやってしまえばほかのブロガーより一歩先んじることができるチャンスということで今回は挑戦します。
先に言っておきますが、ぼくのブログはだいたいが随時更新という形をとっています。まずは基本的な部分を紹介しておいて、コレは!というものがあれば後から記事に追加していきます。ちなみに各チーム独特の戦術は今後単体で記事にしようかと考えています。
プレイを全部まとめて一つひとつ紹介というのは非常にややこしく不親切に感じるので、DLの動きから順番に紹介していきます。
DLのムーブ
宣言どおりまずはDLの動きから。
Slant
名前のとおり、DLは斜めにLOS(Line Of Scrimage)を割ります。というより本来の責任ギャップから1個どちらかにズレます。全員がSlantする必要はありません。片側だけとかでも良い。Slant自体はランストップのためにも使えますが、それは別の機会に。
単純にアラインメントとは違うギャップを詰めることになるのでOLとのすれ違いが狙えます。特にMan Blockの場合、優秀なラッシャーと対峙するOLは気持ち前のめりになりがち。そういう時スッと肩を透かしてやる。気持ちいいね。
Stunts (Twist)
パスラッシュではこちらの方がよく使われます。つまり、3rd Downなどのパスシチュエーションには有効です。ランでも使いどころはあります。DTとDEがStuntsするものをTEXなんて言ったりします。DT同士がクロスするのは分かんない。知ってたら教えてください。
用法は片方が直線的にSlantした後、もう片方がぐるっとLoopします。最初に直線的にラッシュする方がOLをガサーっと流してしまうのがコツ。Looperのラッシュレーンを空けるためのお膳立て役に徹します。必ず2人ずつというルールはありません。DT2人が片側にSlantしながら、SlantサイドにいるDEが2人分Loopしてくるパターンもあります。
5 men frontからの4 men rushです。手前のEDGEはパスカバーに下がる一方、ラッシャーは左右同じパターンでラッシュします。片側がSlide ProtectionでもCの横は抜きやすい。多分コレは奥側のGのミス。
この視点なら分かりやすい。91番が外にラッシュする一方、55番はストレートにラッシュすると見せかけてLoop。左サイドのOLはSlideしていますが、61番1人でNFLのスーパーEDGEをブロックするのは難しい。紙の上では数は足りていますが、Stuntsとマンパワーで上回ったプレイ。
Blitz
ブリッツというのは、DL以外のメンツがスナップと同時に決められたギャップへ突撃することの総称です。パスラッシュだけでなく、ランストップブリッツもありますが、その辺はまだ詳しくないので別の機会に。たいがいはどちらにも使えるような気がします。
LBのBlitz
まずは最も一般的なBlitzから。ブリッツと言えばだいたいはLBの仕事だったりします。ランストップでもパスラッシュでもバックスへの距離が近いからね。
どのギャップにブリッツするかはその時次第で決められていることもあれば、DLのラッシュによって空いた部分を埋めるようなブリッツもあります。Cover 1の時、RBがパスプロしたらブリッツに入るパターン(Green Dog)もあります。
一見単純なMike Aのブリッツに見えますが、両EDGEがラッシュしてくる脅威もあります。OLはスナップ前に誰がどれだけラッシュに来るのか分からないわけです。この前のパスプロの記事を思い出していただければと思います。この時点でラッシュする可能性のあるディフェンダーは6人。EmptyフォーメーションだとTEをパスプロ要因にしなければ足りない人数です。特にMikeはかなりキナ臭い。この時点で右Gは「俺がAギャップを守る」とコミュニケーションを取らなければなりません。なぜならMikeはCの担当。そしてNTが浮くことになります。パスプロはシチュエーションによって細かくルールが決まっていますが、最終的にはQBに近い順から守るというのがセオリー。
結局両EDGEはパスカバーに下がった4 men rushです。ディスガイズの勝利です。
コレはCover 1で1人ブリッツに加えてGreen Dogで入ったパターン。RBはLBとマッチアップすることが多いですが、1人のRBに対して結果的に2人のLBがブリッツに入っています。このようにプロテクション要員の負担を上回るブリッツはOverloadと呼ばれます。過負荷ってことね。
DBのBlitz
LBほどの頻度でブリッツすることはありませんがDBもブリッツします。CBだったりNBだったりSAFだったり誰でもブリッツする可能性はあります。CBはWRが近い場合にブリッツすることが一般的です。Plus Splitくらい広がっているときには届かないのであまり意味はない。それに対してNBやSAFはスロットレシーバーやTEにマッチアップしたりDeepにいることがあるので、いつでもどこでもブリッツしやすい。特にSAFはランストップブリッツにも使いやすいね。
LBと違ってAギャップとかのど真ん中に突っ込むパターンはあまり見ません。パスラッシュの観点で言うと、大外からスピードで捲ってしまおうという考え方が一般的かと思います。
コレはCBのブリッツ。おそらくTEがパスプロだったからディレイでブリッツに入ったパターン。視界の外から来るラッシャーには誰も気づかない。それにQBに近い位置だから早いタイミングで足の速いCBがラッシュしたらすぐに届きます。
コレはSAFのブリッツ。絶妙なタイミングで入ったからスルリと抜けられた。西宮の福男レースなら彼がことしの福男です。
おそらく、最初はOLの中でパスラッシュの可能性のあるディフェンダーには数えてなかったと思います。ホントに絶妙なタイミングだからアジャストもできぬままサックと相成りました。SPだったらクビ。
Blitz Package
ここからはDLのムーブメントとブリッツを組み合わせた実際のプレイを見ていきます。
Fire Zone
ブリッツパッケージといえばまずはこれ。スティーラーズの伝説的DC Dick LeBeau(ディック・ルボー)が編み出したとか言われているパッケージです。いまでも現役の素晴らしいアサインメントです。ランにもパスにも強い。ディスガイズもしやすい。そしてバランス良い!これが1番大事。
FireはSamのContain Rushを指します。だいたい外から差し込むようなブリッツはFireと言います。ZoneはZone Blitzのこと。Zone Blitzは誰かがBlitzする代わりにDLの誰かがパスカバーに下がるプレイです。カバーに下がると思っていないディフェンダーが下がっているため、INTしやすい。あとはFire Zone 3とかFire Zone 2とか後ろの数字でカバレッジシェルを表したりします。
ギャップ負担などは絵のとおりです。余った部分はWillに埋めてもらいます。オプション負担は多分、FlatディフェンダーがPitch Man、ContainがQB、MikeとWillがDiveという具合だと思います。
上の図の場合、LB 2人がブリッツしていますが、NBでもFireに入っていいし、FSがオフタックルに入ってもいい。ブリッツ要員は組み合わせ自由です。DLの動かし方も自由。Slant Fireじゃなくてもオッケーです。そこもディスガイズしやすいポイント。
当然、ブリッツとともにパスカバーも考えなければなりません。一般的に3 under 3 DeepのCover 3となります。ブリッツ入るサイドにはSAFを降ろしてくること。ブリッツの裏がガラ空きになるのを防ぐためです。普通に考えてカバレッジの弱点はCBの前、Flatゾーンです。
どちらにスラントするかというのが、悩みどころですが簡単にいうとクローズド(ストロング)サイドにスラントしてオープン(ウィーク)サイドにブリッツを入れる場合、ブロッカーを上回る人数を送り込めます。その逆なら何だろう?知ってる人いたら教えてください。
パスラッシュにも強いけど、Zoneランにもはちゃめちゃに強い。スラントサイドが当たったらそのままDLがペネトレートしやすい。スラントサイドと逆でもブリッツが潰しやすい。美しいね。
これは大成功。BunchサイドのNBとMikeがブリッツに入るわけですが、プレスナップではCover 6 (QQH)に見せかけています。
これは失敗例。完全にFire Zoneがバレてしまった。こうなりゃFlatに投げちゃえ。
Fire ZoneならFlatに投げちゃえという早合点は命取り。一応 4 Under 2 Deepのパターンもあります。これはWillがVertical Curlの担当なので、Willのミスですが図面上では上手く守れるはず。
Vic FangioのCover 1 Dog
Man FreeのCover 1からWillの単品ブリッツです。Vic Fangio(ビック・ファンジオ)がブロンコスにいた17シーズンのプレイだそう。
両DEはWide RushでOTを広げます。DT 2人はストレートにラッシュ。RBの反対サイドに位置するブリッツ担当のWillはOGのスタンスを見てブリッツに入るギャップを決めます。OGが外に開いていたら、つまりブリッツをケアしている場合はLoopして逆サイドのAギャップへ、DTに体を向けていたらそのままBギャップへ入ります。
Keith ButlerのOverload Front Cover 1
図の左側にはプロテクションの人数を上回る3人のDLがセットしているからOverload Front。Keith Butler(キース・バトラー)がスティーラーズにいた時代のNBのブリッツとTwistを混ぜたプレイです。
NTはCの逆側を目がけるCross Faceのラッシュ。DEとDTはTwistします。Mug UpしているDBとMikeはそれぞれTEとRBをM/M。
逆サイドはDEがContainラッシュしている内側をNBがQB目がけて一直線にラッシュします。
Lovie SmithのCover 1 Peel
俗に言うOverloadです。Lovie Smith(ラビー・スミス)がイリノイ大学のDC時代のパッケージ。片側から4人ラッシュします。
左サイドはぎゅうぎゅうに固まっています。DEは普通にエッジからラッシュ。SamはBギャップ、DTはC目がけてラッシュ。Mikeはパスドロップすると見せかけてBギャップへブリッツ。Bギャップへ2人送り込んでプロテクションの人数を上回っているからOverloadとなります。
右側は普通にストレートラッシュ。
RBが逆にパスコースに出るならEDGEがPeelします。
Creepers PressureとSimulated Pressure
最後はディスガイズについて。
みなさんはTwitterや海外サイトでアメフトの情報を集めているとき、”CREEPERS”とか”SIM Pressure”という言葉を目にしたことはありませんか?2つの違いはブリッツに入る構えを見せているか否かで呼び分けられます。同じFire ZoneでもCreepersとSIM Pressureでは何が違うのかを見てみましょう。
Creepers Pressure
Creepers Pressureは、一見Readの状態、つまりブリッツに入る構えを見せていない状態からプレッシャーを仕掛けることを言います。矢印を一旦図から取り除いて考えてみてください。普通の2 High Coverageに見えます。単純に考えるとCover 2が予想される状況です。
ところが実際にはFire Zone 3なわけです。ちょっとは面食らうでしょうが、NFLとかFBS校のOLではこれ単体じゃそんなに困りません。
一見Frontの4人がラッシュすると見せかけて、大外からDouble FireのCreepers Pressure。スピードのあるNBをブリッツに入れることでパスプロを捲ってしまうプレイ。
SIM Pressure
Simulated Pressure、略してSIM Pressureはあからさまにブリッツに入る構えを見せながら実際には違う場所からプレッシャーをしかけるもの。誰がどう見てもMikeとWillはブリッツ入りそうなのに入らない。かわりにSamが入ってくる。
これだけハードなラッシュの構えを見せる効果は?普通なら「えっ?ブリッツってバレちゃうじゃん」と思うかもしれませんが、それはそれで良いのです。逆にあえてインサイドからのハードなラッシュを見せることで、OLのプロテクションルールを変えさせてしまうのです。
最も一般的なプロテクションであるSlide Comboで考えましょう。
まず、2 Widestはクローズドサイドです。じゃあそちらをSlideサイドとします。つまり、オープンサイドはSolidサイド、BOBで守ります。ところがILB 2人がギュウギュウに詰めてきました。OLは実際にブリッツが来るかどうかなんて知ったこっちゃないので、ブリッツに備えます。つまりTBの負担であるWillをオープンサイドのGが守ることにします。なぜなら、そのままにしておくとWillはすぐにQBサックできるくらい近いから。TBからはWillに間に合わないことは分かると思います。この時点でWillをGが、TをTBがブロックすることになります。マッチアップ的には不利ですがしかたない。即サックよりはマシということです。
パスプロで学んだGapやSnapの考え方です。
実際にスナップされるとILBは2人ともブリッツに入りません。予測とは違ったラッシュをしかけることで、すれ違いやOLのプロテクションミスを誘うというわけです。
LOSには6人、奥側のFSを含めると最大で7人のラッシュが想定されます。ところが実際にラッシュをしかけるのは4人だけ。実際にはCover 1 Robberのように見えます。CBが見事にタイトなカバーについておりパス失敗。パスプロは上手くいったものの、QBの判断ミスを誘うことができました。
CreepersとSIM Pressureのコンビネーション
ベイラー大学のDave Aranda(デイブ・アランダ)は、Creepers PressureとSIM Pressureの名手として有名です。もともとLSUのDCだったアランダはこのプレッシャーで出世しベイラー大学のHCとなっています。
この2つのプレッシャーは単純にどちらかだけ使っていてはいけないのです。2つを織り交ぜることで、ディスガイズできるようになります。Readの状態でもブリッツがあるかもしれない、Mug upした状態でも誰がどこにラッシュしてくるか分からない、オフェンスを疑心暗鬼にさせるのです。だからアジャストも上手くいかなくなり、プレッシャーがかかるようになります。
その裏でアランダは4 menのCreepersとSIM Pressureが得意です。つまり、しっかりカバレッジも7人確保しています。さらにアランダのディフェンスは3-3-5の3 High Safety Defenseで、フロントもTite、Bear, Eagle, 4-2-5と自由自在。ディフェンスのすべてを使ってディスガイズするのです。
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