こんにちは。
いままでこのサイトではオフェンスやディフェンスの各論についてばかり話してきました。それだと初心者や未経験者にはなんのこっちゃかよく分からないという反応があり、改めて初歩的な概論から一緒に勉強しようと思ったわけです。最終的には今回のような大きなテーマから一種類のプレイを深掘りするような小さなテーマまで網羅するサイトに仕上げたいと思います。あまりに初歩的なゲームの進み方までは説明しません。
今回はオフェンスの目的や構成する要素、ポジションなどについて学びましょう。では早速。
オフェンスの目的
試合をする以上、各チームは当然勝利を目指します。この大きな目的のためにオフェンスとディフェンス、スペシャルチームはそれぞれ目的と役割があるわけです。
オフェンスの目的、それは相手より多くの得点を稼ぐこと。
当たり前ですが、試合終了時に相手より得点の多いチームが勝つわけです。そのためにオフェンスは得点を積み重ねる必要があります。
ときどき、「アメフトは陣取りゲームだ」という言い回しを見聞きすることがあります。しかし、これには賛同できません。どれだけ敵陣に進入した回数が多かろうが、得点できなければ無意味です。「アメフトは点取りゲーム」です。
得点の仕方
ではどのように得点するのか。大きく分けるとオフェンスが得点する方法は2つあります。
TD (タッチダウン)とFG (フィールドゴール)です。
TD
TDは相手のエンドゾーンにボールを運ぶことです。運び方はどんな方法でも構いません。
アメフトのフィールドは縦に100 Ydsあります。まるまる100 Yds近く進むことはまれですが、実際オフェンスが始まる地点は20-40 Yds辺りが多いと思います。つまりオフェンスはおおよそ70 Yds前後の距離を進む必要があるわけです。
ルール上、オフェンスは4回の攻撃権 (Down)のうちに10 Yds進める必要がありますが、4回目はパントやFGに使うことが多く、実質3回で進まなければなりません。一気にエンドゾーンまで持っていけるならそれでもヨシ、無理なら短い距離を積み重ねながら最終的にエンドゾーンに到達してもヨシ。どちらも同じ6点を獲得できます。
TDした場合、PAT (ポイント・アフター・タッチダウン)としてFGかプレイを選択することができます。FGに成功すれば1点、プレイに成功すれば2点が追加されます。
これはパスでドカンと一発のパターン。
これはランでゴリっと行ったパターン。
FG
オフェンスはそこそこ進みましたが、エンドゾーンに到達する前に4th Downを迎えてしまった場合はFGの選択肢があります。
FGはボールを受けたH (ホルダー)がボールを抑え、K (キッカー)が相手エンドゾーンの奥にあるゴールポストの2本のポストの間にボールを通せばオッケー。FGで得られる点数は3点。
どの程度の距離からFGを選択するかはKの能力やチームによりけりですが、NFLなら30 Yds前後で4th Downを迎えればFGを選択することが一般的です。カレッジならもうちょっと進む必要があるチームもありますが、1部上位校が集まるFBS校だとだいたいはNFLと同じ感覚です。
これがFG。
NFLだと66 Ydsの距離を決めます。
FormationとMotion
フットボールにはフォーメーションというものがあります。また、フォーメーションから選手を動かすモーションも組み合わせることでオフェンスのバリエーションを増やすことが可能です。
Formation
フォーメーションを組む上でいくつか重要なルールがあり、守らなかった場合は反則となります。最も重要なのが「LOS (Line Of Scrimmage)に7人並んでいないといけない」というもの。LOSとは、プレイが始まる前にセットされるボールを基準として水平方向に伸びる仮想の線です。
埋め込んだ動画には赤い線があります。これがLOS。フィールド上にいちいち線を引いているわけではありません。選手はここにLOSがあると仮定してLOSに7人並べなければなりません。
逆に言うとこのルールさえ守っていればどのようなフォーメーションでもオッケーです。有資格レシーバーがどうのとか何をもってLOSにラインアップしていると判断するのかなど、細かいルールは色々ありますが今回は割愛します。
上の図は一般的にPRO-Iと呼ばれるフォーメーションで、フットボールを始めた人間のほとんどが最初に学ぶフォーメーションです。
こちらはACEとか呼ばれたりします。PRO-IとはWRの位置だけでなくバックスの位置も違います。
フォーメーションによってある程度ランとパス、どちらに向いているかという特徴や実際の傾向もあり、フォーメーションのバリエーションの豊富さもフットボールを奥深くしている要素のひとつです。
さらに細かく知りたい方はこちらも参照のこと。
Motion
フットボールは一度セットしたらそのままスタートするわけではありません。元のフォーメーションから選手を動かしてもよいのです。その方法のひとつがモーションです。
モーションは一度に1人だけ動かす方法です。ルールはいくつか定められています。
黒い破線で示したものがモーションです。この図の場合、最初は右のWRだったZが左のスロットレシーバーの位置まで移動しています。
モーションの利点はモーションの勢いを生かしたり、オフェンスとディフェンスのミスマッチをつくりだしたり、ディフェンスが対応できない間にプレイを始められたりといろいろあります。
このほか、複数の選手を動かすShift (シフト)もあります。シフトの場合、LOSに並んでいる選手も動かせますし、多くの人数を一気に動かしてディフェンスを混乱させることができます。そのかわり、動かした後は1秒の制止時間が必要となります。
オフェンスのプレイ
今度はどのようにボールを進めるかについて。アメフトにおけるオフェンスのボールの進め方はかなり大雑把に分けると2つの種類あります。
ランとパスです。
Run
ランプレイとは、スナップやエクスチェンジを受けたQBが主にRBへボールを渡し、RBがブロックの間を走り抜けるプレイのことです。
ランプレイを図で表すとこんな感じ。これは49ersのランプレイのひとつで、Outside Zone (OZ)というプレイです。
ランプレイ自体もさまざまな種類があります。OLの真ん中を走るもの、外を走るもの、その中間くらいを狙うもの、パスのフリをしたラン (DRAW)、RB以外の選手がボールを持つもの、ボールを持つ選手をプレイが始まってから選択するもの (OPTION)などなど。今回細かいことは紹介しませんが、ボールをQBの後ろの選手に渡して走るものがランプレイです。
ランプレイ自体はリスクが少ないと一般的に言われています。INT (インターセプト)の危険性がないことやパスのように失敗がないということがよく理由に挙げられます。
個人的にランプレイを選択する理由として考えられるのは楽だからです。リスクが低くゲインし続けられるならそれが1番良い。実際、NFL以外はランを主軸に据えるチームがいくつかあります。カレッジでもランは平均5 Ydsくらいゲインするチームはあります。
NFLはほかのレベルのフットボールと比べてそもそもディフェンスが強くてランを出しづらい。だからせいぜいランとパスの比率が半々くらいに落ち着きます。
デメリットは時間を使うこと。サイドラインに出ずインバウンドでプレイが止まれば時計は進み続けるため、ランを主軸にオフェンスを展開すると1回のドライブにかかる時間は相対的に長くなります。これが完全なデメリットかどうかはシチュエーションによって変わりますが、相手がパスでパパッと得点できるチームなら厳しくなります。また、1回のプレイで獲得できるヤードはパスより短いこともデメリット。
ランについてはこちらも参照してください。
Pass
もうひとつのプレイがパスです。Cからボールを受けとったQBはWRやTE、RBのいずれかにパスを投げます。投げる方向は前後左右どちらでも構いません。ただし前方に投げるのは1回だけ。後ろには何度でも投げられます。
パスを図で表すとこんな感じ。これはY-Crossというプレイです。図の細かい説明は割愛します。このプレイの場合、X、Y、Z、H、Fの5人にパスを投げる可能性があります。
パスの場合、ボールをレシーブする可能性がある選手はOLとQBを除いた最大5人です。ただし、パスにもさまざまなバリエーションがあります。プレイ開始後QBが3歩下がったタイミングで投げる短いパス、5-7歩の長いパス、ランのフリをしたパス (PAP・Play Action Pass)、DLのラッシュの裏を通すパス (Screen Pass)などなど。それぞれのプレイによってターゲットとなる人数は変わります。
パスはなんといっても獲得ヤードが大きい。ランは平均5 Yds獲得できれば良い方ですが、パスだと10 Yds以上獲得することもできます。完全な1 vs 1の状況なら一気にTDすることもあります。
なら「パスばっかり投げればいいじゃないか」という声も上がりそうですが、パスは失敗やINTのリスクがあります。だいたい60%の成功率なら上出来と言われています。NFLだと70%くらいの化け物QBもいますが。
パス主体のオフェンスといっても短いパスを刻むスタイルやランを交えながら長いパスを狙うスタイルなど、戦法はチームによってさまざま。NFLやカレッジ以下のレベルだとそもそも成功率が低くあまり使えないチームもあったりします。
なお、パスについてさらに知りたい方はこちらをご覧ください。
パスにおけるOLの働きについてはこちらも参照ください。
オフェンスの基本的な考え方
さて、これまでオフェンスの目的と構成する要素について話してきました。ではこれらを活用していかに得点するのか?
物事にはなんでもセオリーというものがあります。いかにオフェンスを進めるかを考える上でベースとなるものです。
- ターンオーバーをしない
- オフェンスが時計をコントロールする
- 相手に的を絞らせない
1については分かると思います。得点の多さで競うスポーツである以上、得点機会を損失することは勝利の可能性を減らすことになります。INT (インターセプト) やファンブルで相手にボールを与えることは許されません。また、俗にいう”3 & out” (ドライブ最初の1st Downを更新できずにパントすること) もせっかく得た攻撃権をすぐに相手へ渡すことになり、陣地こそ回復できますが、得点機会の損失に直結します。これは2にもつながることです。
2は基本的にはできるだけ長い時間オフェンスをしたいということです。自分たちの得点機会を増やし、相手の得点機会を減らすためには自分たちがずっとオフェンスし続けることが最も有効となります。1回のドライブを長く続けても良いし、さっさと得点してそれを何回も繰り返しても良いのです。まあ、さっさと得点して何回も繰り返すのは簡単ではありませんが。とにかく相手にオフェンスさせないことが重要です。Time of Possesionがスタッツとして表示されるのはこのためです。
また、2 minute offenseのようなsituational footballでは、早く得点する能力が求められます。
とにかく自在に時計をコントロールできるオフェンスを構築できればかなり勝ちやすくなります。
3はディフェンスを混乱させることです。何かで読んだ記憶だと「OC (Offense Coordinator) は相手のDC (Defense Coordinator) を混乱させる必要はない。相手選手を混乱させるのだ」との文言がありました。これは多分カレッジのコーチかなんかの言葉だったはず。実際にディフェンスを混乱させる方法としては一般的にフォーメーションやパーソネルでバリエーションをつくる方法とランとパスをバランスよく織り交ぜる方法があります。
まず、フォーメーションとパーソネルですが、同じフォーメーションから似てるようで違うプレイ (ランとPAP (Play Action Pass) など) や全く違うプレイを使ったり、違うフォーメーションから同じプレイを展開することでディフェンスは的を絞ることができなくなります。パーソネルも同様です。人数に限界があるチームなら話は別ですが、特定の選手が入ることでプレイがバレてしまわないように気をつける必要があります。
ランとパスのバランスはコーチによって考え方が異なります。一般的にはできるだけ均等にプレイする方が望ましいと言われています。どちらかに偏るとディフェンスはランまたはパスに強いディフェンスを敷くことで、守りやすくなってしまうからです。しかし、Air Raidの盟主とも言える故Mike Leach (マイク・リーチ) によれば、ランとパスが均等なオフェンスはバランスが良いわけではないという考えだそうです。彼はスキルポジションの5人にできるだけ均等にボールを配分することがバランスの良いオフェンスとのこと。とにかく、バランスの取り方はともかくディフェンスに予測させないことを意識する必要があります。
Down & Distanceによるプレイ選択
冒頭に説明したとおり、オフェンスは4回の攻撃権を与えられます。
最近のアナリティクス業界ではとにかくパスをバカスカ通して大量得点してしまえという身も蓋もないアドバイスが横行していますが、「実際それができたらみんなやっとるわ!」というのが本音です。プレイの項目で説明したとおり、パスは成功率60%超えたら上出来というもの。無条件にパスばっかり投げるわけにも行きません。それにランで稼ぎ続けられるならそれが1番楽とも説明しました。1st-4th Downまでの中でランかパスを選択することになります。
次の1st Downまで10-1 Ydsの残りヤード数によってそれぞれどちらのプレイを選択するかおおよその傾向というものがあります。その傾向についてディフェンスのプレイブックやデータサイエンティストによるチャートを交えて説明します。
※2 Minutesや4 Minutesなどのシチュエーションによっては傾向に当てはまらないことがあります。
1st Down
1st & 10
多少反則によって前後はあれど基本的に1st Downは10 Yds残されています。
このシチュエーションでは、まずランが多いです。特に試合の最初のプレイはランを使いがちです。チームによってはPAPやショートパスもありますが。
2nd Down
2nd & 7-10
NFLならまずパスだと思ってもらって結構です。カレッジだとランを使うチームもそこそこあります。
2nd & 3-6
NFL、カレッジともにランの傾向が強くなります。ただしパスの可能性も少し上がります。
2nd & 1, 2
この距離はホームランを狙うシチュエーションです。パスを失敗しても3rd & 1, 2なら安全にランで更新しやすいため一発ドカンとロングパスを決めてやりたい。
3rd Down
3rd & 15-
かなり長い距離が残った場合、多くのチームはDRAWやスクリーンパスで1st Down更新を諦めてパントと加えて陣地回復に努めることが多いです。負けていて後がない状況は除きます。
3rd & 7-10
この距離はほぼ問答無用でパスとなります。
3rd & 3-6
こちらもほとんどパスです。カレッジだとそう考えるディフェンスの裏をついてランを選択する場面もありますが、NFLならその可能性もありません。
3rd & 1, 2
1番自信のあるランプレイを使うシチュエーションです。QB SNEAKなりFB DIVEなり、INSIDE ZONEなりダウンヒルなランが多いです。ここで失敗すると4th DownでPAPをやったりすることもあります。
最新の統計
2022年シーズンのスーパーボウルに進んだチーフスとイーグルスのDown & Distanceによるプレイ選択の傾向を紹介します。
チーフスは全体的にパスの傾向が高めです。ランが多いのは2nd & Shortくらいで、残りはパスの方が優勢な結果となっています。
イーグルスは概ね先ほど説明した傾向に沿った結果となりました。
まとめ
フットボールのオフェンスを構成する要素は数多くあり、フォーメーションやモーション、シフト、ラン、パスの組み合わせは無限大です。あらゆる要素を組み合わせディフェンスに的を絞らせず、欺き効率よくゲインし続け最終的に得点を目指します。
かなり初歩的な概要について説明しましたが、細かい要素について改めて別の記事で説明したいと思います。
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