こんにちは。
前回はランプレイ、前々回はオフェンスの基礎について少し説明しました。
というわけで今回はパスオフェンスについて学びましょう。
NFLでは、パス全盛の時代を迎えて早何年?か経っております。ではこのパスオフェンスがここまで持て囃されるのはなぜでしょう?
今回はパスのメリットやデメリット、主な考え方を紹介します。では早速。
Passとは
パスとは、プレイが始まりボールを受け取ったQBが走るレシーバーにパスを投げるプレイのこと。フットボールでは前方へのパスはプレイ中1回だけ認められています。やや後ろに投げるパスもありますが、一般的にパスと言うと前方へのパスを指します。
パスでレシーバーとなれる選手は最大5人。OLが5人、QBが1人なので11人から引き算をすると5人が残りますね?この5人を使っていかにパスを通すかが重要となります。レシーバーとなる選手は主にWRとTE、RBが担います。レシーバーたちはそれぞれあらかじめ決められたコースを走ります。このコースをRouteと呼び、ルートの組み合わせによりディフェンスに圧をかけ誰かをオープンにさせるのがパスでの狙いです。
この間、OLは何をしているかと言うと、ターゲットを探すQBを守ります。これをPass Protectionと言います。ディフェンスはパスカバーだけしているわけではありません。QBにプレッシャーを与えないといつまでもターゲットを探し放題なのでQBサックを狙います。このプレッシャーをかけにくるパスラッシュからQBを守るのがOLの仕事です。
Passのメリットとデメリット
続いてはパスの強みと弱みについて。これはランプレイの反対だと思ってもらって結構です。
メリット
獲得ヤードが大きい
ランは1回平均5 Yds出れば上出来と言いましたが、パスだと1回成功すれば10 Ydsくらいは稼げます。次の1st Down更新までに距離が残っている場合は強力な武器となります。
すぐに得点できる
獲得ヤードが大きいということは得点もすぐにしやすくなります。つまりラン主体のオフェンスよりパスを中心に攻めた方が総得点は大きくなります。それにさっさと逆転したり追いついたりしたい場合はパスが有効となります。
デメリット
ターンオーバーと失敗の危険性
パスにはINT (Intercept) の危険性があります。INTはパスをそのままディフェンダーにキャッチされてしまうこと。その時点で即攻守交代となります。NFLのQBならそこまで危険性は高くありませんが、ランでファンブルするよりは危険性が高い。
INTとはならずとも失敗する可能性もあります。ランなら獲得ヤードは少なくともプレイすれば数 Ydsは稼げます。NFLならノーゲインも多々ありますが、パス失敗するより少ないヤードでも稼ぎたい場合はランに分があります。
タイムマネジメントが難しい
試合終盤リードしている場合、オフェンスはランばっかりプレイします。これはランをプレイしてインバウンズでダウンすれば時計は進み続けるから。パスの場合、失敗すれば時計は止まってしまいます。このため、時間潰しには適していません。
なぜPassなのか
メリットデメリットは分かったところで、なぜNFLではこんなにもパスが増えているのでしょうか?パスが持つ効果をおさらいしましょう。
ランが出ないから
これは個人的な見解ですが、NFLはランが出ない!ノーゲインなんかしょっちゅうで、ゲインしても2 Ydsなんてこともよくあります。10 Yds以上ゲインすることはそこまで多くありません。となればパスしか残っていません。だからパスでゲインしないとエンドゾーンなんて夢のまた夢。
ディフェンスの人口密度を下げる
パスが持つ最大の効果はディフェンスをフィールドいっぱいに広げることです。想像してください。密集でタックルするのと広いオープンフィールドでタックルするのとどちらが難しいか。当然オープンフィールドでタックルする方が難しいです。じゃあできるだけボールキャリアに広い空間を与えるためにはどうするか?パスです。レシーバーを散らして広いフィールドで遊ばせてあげればいいのです。成功すれば結構なヤードを獲得できます。これはランにも効いてきます。パスが通るとなればディフェンスはランへの反応が鈍ります。となるとラン・パス両方とも攻めやすくなります。
速攻
タイムマネジメントが苦手ということはすぐに得点はできるわけです。リードされている時、2ミニッツなど素早く得点したい機会はよくあります。そんな時はパスが有効となります。良いQBがいればパスはバカスカ通ります。バカスカ通るなら逆転もしやすいし、なんなら突き放しやすい。タイムマネジメントなんか関係ありません。すぐに大量得点できるから。だからNFLでパスが主流となるのです。これができるチームはそう多くありませんが、だからこそQBの価値も上がります。
Route Tree
パスを受けるレシーバーたちには決まったルートを走るルールがあります。そしてルートをまとめたものをRoute Treeと言います。各ルートが枝分かれした木のように見えるからです。チームはその中から選手ごとに各ルートを組み合わせてパスコンセプトを生み出します。
パスコンセプトに入る前にルートツリーを紹介しておきます。
これはWRのルートツリー。
これはTEのルートツリー。
このようにあらかじめWRやTE、RBにはチームが使うルートすべてをまとめた資料があります。目指す場所や縦に走る深さ、最終的な深さなど厳密にルールがあります。
Pass Playの考え方
実際のパスにどんな種類があるか紹介する前に、パスにはいくつか考え方があることを説明しておきます。要はディフェンスに対し、個々のプレイにどういう狙いがあるかということです。
パスプレイをつくる上で重要な攻め方としてVertical StretchとHorizontal Stretch、そしてTriangle Readがあります。
Stretchとは読んで字のごとく、引き伸ばすことです。何を引き伸ばすのかと言われればディフェンスを引き伸ばすわけです。パスカバーの主力であるZone CoverだとひとつのZoneに1人のディフェンダーがいます。このZoneの前後または左右にレシーバーを送り込めば、ディフェンダーはどちらを守るべきか選択を迫られます。これがStretchです。
これから各種について説明します。
また、Man Cover対策のMan Beating Routeも紹介します。
Vertical Stretch
Vertical Stretchは名前のとおり、縦にストレッチさせるプレイです。上の図はSHALLOW CROSSと呼ばれます。
この図の場合はHとYでHookディフェンダーを前後に挟み込んでいます。
こうすると多少わかりやすくなると思います。ここではHookディフェンダーをMikeと仮定しています。この場合、Mikeは自分が守るべきHook Zoneの前後でレシーバーが交差することになります。一般的に奥から守るのがセオリーなので手前のYが飽きやすくなります。逆に手前に食いついてしまえば奥のHが空くことになります。
これがVertical Stretch。
Horizontal Stretch
Horizontal Stretchも名前のとおり、特定のディフェンダーを横にストレッチさせます。
FOUR VERTICALSは4人のレシーバーを縦に走らせるプレイですが、Deepを守る選手を左右で挟み込みます。
Cover 2を想定するとこのようにSFはXとHに挟まれます。
Cover 3を想定するとこうなります。HとYに挟まれFSは選択を迫られるわけです。
いずれにせよディフェンダーが食いつかなかった方に投げればオッケーです。
Triangle Read
Triangle Readは、Vertical StretchとHorizontal Stretchを組み合わせた三角形でディフェンダーを囲うパスの狙い方です。上の図はSNAGというプレイです。主にFlatディフェンダーとDeepディフェンダーがどういう動きをするかで投げるターゲットを決めます。
まずCover 2の場合、こんなもんは問答無用でYに投げます。SFはCornerルートを内から追いかけることになるので、この時点で有利なレバレッジを確保しています。CBはFlatの少し深い位置にいるのでリードボールを投げてあげればすんなり通ります。
次にCover 4の場合、Deepに向かうYは潰されるのでZかHが残ります。ここでトライアングルの強みが発揮されます。FlatディフェンダーであるNiがどちらをカバーするかで投げるレシーバーは変わります。Hにすぐ飛びつくならZに、ZをチェックするならHに投げることになります。
フィールドを縦と横に広げることでどこかに発生するオープンフィールドを見つけるのがTriangle Read。
Man Beating Route
Man Beating Routeで代表的なものはPickまたはRubと呼ばれるコンビネーションです。上の図はKyle Shanahan (カイル・シャナハン) の49ersで使われているRUBというコンセプトです。
Yが縦のルートに出る際、FをM/Mするディフェンダーと事故に見せかけてぶつかります。ブロックするのではなく、あくまでぶつかってしまったという演技力が大事です。オフェンスのPass Interferenceという反則を取られてしまうから。こうすることでFをM/Mするディフェンダーは引き剥がされFがワイドオープンになります。
Man Beaterは主に交錯するルートコンビネーションが多い。ディフェンダー同士をぶつけることが可能だからです。
あとM/Mに対しては単純に横に走るだけで有利なLeverageを確保しやすい。
Progression Read
パスの狙いは分かったけど、じゃあQBはメインターゲットとなるレシーバーを見続けるかというとそうでもありません。ターゲットを見すぎるとディフェンダーにバレてしまいます。NFLくらいレベルが高くなると一瞬でINTされてしまいます。それにメインターゲットはいても他にも複数ターゲットはいます。このため、QBがターゲットを見る順番はプレイによって決まっています。この順番をProgression Readと言います。
では具体例とともに説明します。
これはシャナハンが使うHOOTERSというパスコンセプトです。先ほど説明したVertical Stretchに当たります。
FはSFを釣るための囮、Alertという役割なのでターゲットには含まれません。ターゲットとなるのはZとY、Hです。このプレイの場合、Z→Y→Hの順番で見ることになります。メインはZとYのストレッチなので奥から手前へとチェックします。この時点でどちらかが空いていれば空いているレシーバーに投げます。上手く両方カバーされていたらHへ投げます。Outletとはチェックダウンのことで、誰も空いていないときの保険のような意味合いがあります。
HOOTERSは奥から手前へとリードしますが、ほかにも内から外、外から内、左から右などのパターンがあります。いずれのパターンも共通しているのは一筆書きで見れるようにしていること。左見て右見て奥みたいなグチャグチャのリードは適していません。パスプロもそこまで長く保つ訳ではありませんし、投げるタイミングも崩れます。プレイデザイン上美しくない。
このようにQBは見るべき順番があります。「ワイドオープンのレシーバーを見逃した」という趣旨でQBを安直に批判するツイートはアメリカ人もよくやっていますが、そいつらはチーム外の人間です。チームの人間でもないくせにバカな批判をするファンにはならないように気をつけましょう。QBは一度にひとつの方向しか見ることはできません。判断が間違っているかどうかはチーム内の人間にしか分かりません。
ちなみにProgression Readはチームごとに違うため、同じようなコンセプトでも違うことがあります。だから一般的な順番と違うからといって間違ってるという批判もダメね。
Passの種類
さて、あらかたパスの仕組みが分かったところで、最後にどんな種類のパスがあるのか見てみましょう。
パスはDrop Back PassとPlay Action Pass (PAP)、Movement Pass、Screen Passに分けられます。Drop Back Passはさらに3 Step Passと5-7 Step Passに分かれます。それぞれの特徴を説明します。
Drop Back Pass
Drop Back PassはそのままQBがドロップバックするパスです。スナップやエクスチェンジを受けたQBが後ろに何歩か真後ろに下がってパスを投げるアレです。何歩下がるかによって3 Step Passと5-7 Step Passに分かれます。数字がそのまま下がる歩数を表します。
3 Step Pass
3 Step Passは日本語だと3歩パスと呼ばれます。直訳しただけね。QBはUnder Center (Setback)ならエクスチェンジを受けてから3歩、Shotgunならスナップを受けてから1歩下がったタイミングで投げるパスです。コーチによってはQuick Passとも呼びます。クイックパスとも呼ぶとおり早いタイミングで投げるため、獲得ヤードは短くともテンポよく攻めることが可能です。テンポよく投げられることはパスラッシュが届く前に投げることにもつながります。
上の図はSTICKと呼ばれるコンセプト主にYがターゲットとなります。6 Yds縦に走った後、振り向くだけ。M/Mなら振り向いた後すぐに横へ流れることでディフェンダーから距離を取ります。とりあえずで使いやすい飲み会のビールのような存在のパスです。
Progression Readは図に書いてある数字のとおりです。
ほかにもいろいろなコンセプトがありますが、詳しくは下記リンクを参照ください。
5-7 Step Pass
5-7 Step Passもそのまま名前のとおり、Under Centerなら5-7歩、Shotgunなら3-5歩下がってから投げます。5-7歩と幅があるのはルートの完成までに時間の幅があるからです。いずれもロングパスであることは共通のためひとまとめにされることが多いはずです。3歩パスより当然長い距離を稼ぎやすいのですが、パスラッシュの脅威にも晒されやすいためOLのパスプロ能力が試されます。
図はY-Sailというパスです。メインディッシュは右側に走り込むZとY、Fの3人です。Deep、Intermediate、Underneathと片側に3人を送り込むFlood (直訳:洪水) コンセプトのひとつです。片側に送り込むことでディフェンスとの人数差をつくりだします。その人数差によりどこかでディフェンスがカバーしきれないレシーバーが発生するはずという考えの下、奥から手前へとリードする中で空いているレシーバーに投げます。その中でもメインとなるのはYです。どちらかというと彼をオープンにするためのコンセプトとなっています。
5-7歩パスについてはこちらで。
Play Action Pass
PAPはランのフリをしたパスのこと。一度ランのフェイクを入れることで、DLのラッシュは弱まり、LBのパスカバーをワンテンポ遅らせることが可能です。それとLBのパスカバーを遅らせるということはLBの裏にパスを通しやすくなります。ランが強いチームが使えばとても有効です。それとランが予想されるシチュエーションでも有効です。
DAGGERはPAPと組み合わせやすいパスのひとつ。上の図はシャナハンのDAGGERです。Inside Zone (IZ) に見せかけてLBが食いついた裏に走り込むXと手前を走るYで挟み込むVertical Stretchのプレイとなります。FはSFを引っ張るためのAlertです。
Movement Pass
Movement PassはQBは横に大きく流れながら投げるパスのこと。PAPと組み合わせたBootlegもあればランフェイクを挟まないパターンもあります。横に流れるということで片側にレシーバーを集めるパターンが多い。先ほどのSailと同じようなコンセプトです。ディフェンスとの人数差を生み出せるし、PAPと組み合わせればディフェンダーを置き去りにすることができます。要はディフェンスを左右に広げる役割があるということです。逆にPAPでランと反対のEDGEラッシャーに即サックされることもあるため乱発は注意。
これまたシャナハンのプレイです。彼のMovement Passで有名なのがKEEPERコンセプト。基本的にはZとYで挟み込むVertical Stretchのパスとなります。Xが空いてたらXに投げることもありますが。メインはZのクロスルートです。ディフェンダーが彼に上手く被ってたらYの出番です。ランのブロックをした後ひょっこりターゲットになるためディフェンダーから気づかれにくい。
Screen Pass
Screen PassはOLがあえてパスラッシュをスカしてその裏に通すパスのこと。DLをスカしたOLはターゲットとなるレシーバーのブロッカーとなります。レシーバーはそのブロックの後ろをついていきビッグゲインを目指します。
パスラッシュの勢いを削ぎたいときやランの代わりに使いたいときに有効なパスです。Screenでビッグゲインされるとディフェンスはブリッツを入れにくくなります。PAPのScreenもありディフェンスの足を止めるのには非常に有効なプレイです。その反面、勘のいいDLはスカされたことに気づいてすぐにタックルする場合もあったりM/MしているLBに即タックルされる場合もあります。QBはプロテクションのない丸裸状態のためハードヒットにも気をつけなければなりません。
これはシャナハンのTunnel Screendで、SLAMMERと言います。Tunnel ScreenはターゲットとなるレシーバーがOLの下をくぐり抜けるように走るから名付けられています。多分そう。知らんけど。
ブロッカーとなる選手は外から何番目の選手をブロックするというルールが決まっています。ディフェンスもずっと同じパスカバーではないので臨機応変に対応するためです。外の2人は弾き出すようにブロックして1番内側は外から蓋をするようにブロックすることで走路を確保します。
まとめ
パスを構成する要素は数多くあり、今回説明したのはごく一部です。
速攻で多くのヤードを稼ぎ大量得点できるパスには魅力がたくさんあります。ディフェンスをフィールドいっぱいに広げたり、レシーバーを片側に寄せたり、さまざまな策を練ってパスの成功率を上げています。上手いQBほど簡単に通しているように見えますが、その裏には多くの工夫が組み込まれています。細かい決め事も多くただ試合を見ているわれわれには完全に理解することは不可能です。
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